回答例新型麻疹の流行・海外発生期
Q1リスク評価のために「新型麻疹」の情報収集をします。
「どこから」「何についての情報」を収集しますか?
情報収集の注意点:
- 情報は日々更新されるため、定期的に情報を収集する必要がある
- 特に、海外発生期(アウトブレイク初期)には情報が少しずつ更新されていくためこまめな情報の更新が必要である
- 産業保健同士のネットワークも有用であるため、平時からのネットワーク構築も重要である
情報源:
国内
厚生労働省 | 法改正、Q&A、マニュアル |
内閣官房 新型コロナウイルス感染症対策推進室 | 緊急事態宣言等の政府方針 |
国立感染症研究所 | 流行状況 |
日本産業衛生学会 | 対策ガイド、マニュアル |
日本渡航医学学会 | 対策ガイド、マニュアル |
日本感染症学会 | 対策ガイド、マニュアル |
海外
WHO: World Health Organization | PHEIC宣言、流行状況 |
NIH: National Institutes of Health | 対策、最新知見 |
CDC: Centers for Disease Control and Prevention | 対策、最新知見 |
NICE: National Institute for Health and Care Excellence | 流行状況、対策 |
ILO: International Labour Organization | 流行状況、対策 |
各種学術論文 | 最新知見 |
情報内容
病原体の情報
特性 | 新型麻疹 麻疹ウイルスはparamyxovirus 科 morbillivirus 属に属し,直径 100-250nmのエンベロープを有する一本鎖 RNAウイルスである。遺伝子型はD型、G型、H型など様々なタイプがある |
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感染経路 | 空気感染 ・飛沫感染 ・接触感染 ・ヒトからヒトへの感染あり |
臨床症状 | 2~4日間の高熱(38℃前後の発熱)、倦怠感、上気道炎症(咳、鼻水、くしゃみなど)と結膜炎症状(結膜充血、目やに、光をまぶしく感じるなど)が現れて次第に強くなる(上気道炎症状や結膜炎症状をカタル症状)。発疹が現われる1~2日前ごろに頬粘膜にやや隆起した1mm程度の小さな白色の小さな斑点(コプリック斑)が出現する。コプリック斑は麻疹に特徴的な症状であるが、発疹出現後2日目を過ぎる頃までに消失する。口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、溢血斑を伴うこともある。その後、体温は1℃程度下がり、その後半日くらいのうちに、再び高熱(多くは39℃以上)が出るとともに、発疹が出現。発疹は耳後部、頚部、前額部から出始め、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2日後には四肢末端にまで及ぶ。発疹が全身に広がるまで、高熱(39.5℃以上)が続く |
潜伏期間 | 感染して10~12日の症状のない期間があった後、高熱、咳などの症状で発症する。発疹は鮮紅色扁平→皮膚面より隆起し、融合して不整形斑状(斑丘疹)→暗赤色となり、出現順序に従って退色する。この時期には高熱が続き、カタル症状が一層強くなる。発疹出現後3~4日間続いた発熱は解熱し、全身状態、活力は回復し、カタル症状も次第に軽快する。発疹は黒ずんだ色素沈着となり、しばらく残る。合併症のないかぎり7~10日後には主症状は回復する |
重症化 | 重症化率が従来の麻疹の2倍であり、特に、糖尿病や高血圧などの持病を持つ者や高齢者は重症化リスクが高いことがわかっている。 |
致死率 | タイでのサーベイランスでは10%程度といわれている |
感染期間 | 合併症がないかぎり、7~10日後には主症状は回復する |
診断方法 | 臨床経過 PCR検査(咽頭ぬぐい液) 血液検査(IgM抗体、IgG抗体) |
予防方法 | 従来の麻疹ワクチンを接種し、抗体価が十分に確保されている状態では、感染する可能性が低いとの研究結果が出ている |
治療方法 | 治療薬はなく、対症療法のみ |
予防効果 | 1回接種で95%、2回接種で99%の予防効果があるとの研究結果が出ている。 |
国内外の状況
海外の流行状況 | 現在のところ、タイ北部でのみ報告が上がっているが、11月から3月までの間で確認された感染者数は300人。タイ北部では11月頃より報告が上がり、1~2月には地域での大規模な流行へと発展した。 |
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日本の流行状況 | 現在のところ、日本での発生の報告はない。 |
社内の状況
森越銀座本店のBCP | 政府による緊急事態宣言や行動制限要請が出た場合はその内容に準じて社内のBCPを発動するが、要請がなければ感染予防対策を講じたうえで通常の営業を継続する方針。現時点では「通常営業」のレベルとして設定されている |
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森越銀座本店の危機管理体制 | COVID-19の際は株式会社森越に危機管理本部が立ち上がり、店長が店舗の感染者や状況について定期報告をしていた。感染者が出た場合は、健康相談室が対応している。現時点では新型麻疹に対しての危機管理本部は立ち上がっていない。 |
Q2店長からの相談(外国人従業員の帰省について)に、専門職としてどのように助言しますか?
助言の際の注意点:
- リスクが誰にとって、どのようなものかを整理するとよい。労働者におけるリスクと、事業者におけるリスクは異なるため、混同しないように注意する。
- 意思決定者への助言であり、産業医が意思決定するものではないことに注意する
- 特に初期においては情報が少なく、リスクの不確実性が高いため、リスクを大きめに見積もって判断することが許容されうる。
- 情報は日々更新されるため、助言内容も状況次第で変わりうる(感染拡大or 収束など)
[帰省を許可した場合の問題点]
労働者におけるリスク
- 外国人従業員がタイ現地で感染する懸念
- 外国人従業員が感染や規制等で日本に戻ってくることができない懸念
事業者おけるリスク
- 外国人従業員が日本に戻ってきてから社内や寮で感染を広げてしまう懸念
- 外国人従業員が感染や規制等で日本に戻ってくることができない懸念(マンパワー不足)
- 感染が企業で拡大することで事業所が閉鎖する懸念
- 企業から感染者が出たことによるレピュテーションリスク
*レピュテーションリスク(reputation risk)とは、企業に関するネガティブな評価が広まった結果、企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスクのこと
[帰省を許可しない場合の問題点]
- 外国人労働者が不満によって退職を考える可能性がある。
- 外国人労働者がメンタルヘルス不調に陥る可能性がある。
- 外国人労働者と他の労働者間での人間関係上の問題が生じる可能性がある。
- 外国人労働者の退職によって、マンパワー不足や、その後の販売路開拓に支障がる
[帰国を許可する際のリスク軽減案]
- 外国人労働者の麻疹の抗体価測定
- 外国人労働者の麻疹の予防接種
- 日本に戻ってきてからの検査や、症状のモニタリング
- 日本の戻ってきてからの一定期間の隔離(12日間の潜伏期間分の隔離が必要)や在宅勤務